峠の力餅‐峠駅立売り(窓越し販売)
  当年5月 峠駅立売り116周年 [ it's a traditional rural railway landscape ]

  奥羽本線開通直後、明治34(1901)年5月から”峠の力餅”を峠駅にて販売を
  始めて100余年。汽車から、電車に代わり、旅の情緒をあまり感じなくはなりまし
  たが、”峠の力餅”はますます健在。スイッチバックが廃止され、トンネル内(正しく
  言えばスノーシェッド内)にプラットホームがあるという、ちょっと異世界へ飛び込ん
  だような峠駅で、今日も変わらず力餅を売る声が響き渡ります。

## ―目次― ##
・峠駅にて116年、駅立売り(窓越し販売)と峠駅時刻表
・峠駅と駅立売り(窓越し販売)の変遷
・高速化・効率化・時間短縮時代における絶滅危惧職種の矜持
・駅立売り(窓越し販売)余話 この難しさは「販売可能時間約30秒」これに尽きる
・資料 峠駅立売り 開業当時の許可書 
・駅立売り(窓越し販売)文化を残したい‐5代目語る →GO (自己紹介のページへ)

## 峠駅にて116年、駅立売り(窓越し販売)と峠駅時刻表 ##

旧峠駅にて4代目の立売り−平成前後の頃の写真

現在の駅弁売りの主流は「出店型‐駅構内販売」及び「車内積み込み販売」であろう。
当店が継続している「振り売り型‐窓越し販売」はこの国では絶滅危惧業種であるのが
実情。

現在、山形新幹線のタイトスケジュールの合間に運行の在来線での立売りは極めてシビア。
時間の制約とのたたかい。
峠 駅 時 刻 表 および駅立売り状況
                        (2017年3月4日改正運行ダイヤ)
※2016年11月30日を最後に赤岩駅は下車できなくなりました
《下り》 福島ー山形ー新庄ー秋田ー青森
列車番号
福島発
赤岩発
峠発
米沢着
予約時の電車名
427M
7:14
7:44
8:01
始発の下り電車
431M
8:05
8:35
8:52
8時の下り電車
441M
12:51
13:20
13:38
1時の下り電車
451M
16:04
16:33
16:51
4時の下り電車
459M
19:06
19:35
19:52
夜7時の下り電車
465M
21:09
21:38
21:55
下り最終電車
《上り》 青森ー秋田ー新庄ー山形ー福島
列車番号
米沢発
峠発
赤岩発
福島着
予約時の電車名
420M
7:18
7:35
8:03
始発の上り電車
422M
8:07
8:24
8:53
8時の上り電車
434M
13:08
13:25
13:54
1時の上り電車
442M
17:44
18:01
18:30
6時の上り電車
446M
18:42
19:00
19:28
夜7時の上り電車
452M
20:40
20:58
21:25
上り最終電車
電話での購入予約 ⇒0238(34)2301
電車の運行本数が少ないので青字で記載した電車名「○時の上り電車」
「△時の下り電車」という伝え方でかまいません。「列車番号」は使わないで
 

@平日は上記赤字で記載の電車にて販売しております。(閑散期11〜4月はとくに予約歓迎)
 なお、土日・祝日は7時台(上り下り各始発)の電車でも販売いたします。

A黒字で記載の電車にてお求めになりたい方、要連絡。
(乗客のほぼ全員が通勤・通学者となっている電車運行時間で、販売対象とならないため平日は立ち売り
を行っていないのが現状です)

Bただし、品切れ・電車の遅延等より、販売できないこともあります。
また、まとまった数の購入をお望みの場合は、あらかじめ予約電話をお願いします。
[乗客数がひと桁ということが普通にある県境路線です。駅での販売個数がゼロの日が続くことも珍しくあり
ません。峠の力餅は生菓子ですのでよほど勘働きがいい日でないと多めに準備できない昨今です。(せめ
て昼時間帯の電車の本数が多ければもう少し多く準備できるのですが…)]

C当路線は脊梁山脈を横断するため、大雨・大雪になりやすく、電車が運休することも、
しばし有ります。その場合は電車が来ないわけですから立売りも休まざるをえません
(便利な世の中になったとはいえ豪雪地帯である事実は変えようがありません。とくに12月〜4月は起点
駅である福島駅では想像もつかない積雪と寒さがあります。また、冬期間はとくにできるだけ予約をいただ
きたいのですが、総出で除雪をおこなっている場合もあり、電話にでられないこともあるかもしれません)

※ 天候、その他の状況を勘案して準備しておりますが、電車販売の時間帯と車にて来
店される方が集中する時間帯(13時台)がかぶるもので一時的に力餅の品切れ状態
いうこともあります。また、13:20の電車で完売した場合、5分後の13:25の電車に販
売できなくなることもあります。まれに13:20の電車が5分以上遅れる場合、逆もありま
す。停車時間を1分2分強引に?引き伸ばしてもらえたのは古き良き時代の話。停車時
間がどんどん短縮され、電車運行も「管理」される時代、駅立売りをスムーズにおこなう
ためにも予約も電車の1時間前位にいただけたほうが確実です。

なお、大きな駅みたいに、営業時間中ずっと駅構内にいるわけではありません。電車到
着にあわせて駅へ向かいますので、それ以外の時間帯は直接お店にお越しください。
⇒峠駅より徒歩1分
  ###  ###  お願い  ###  ###
スマホの普及著しい昨今、投稿サイトやブログ作成などのためか、撮影マナーが悪く
なっているように思われます。峠の力餅 売り子は肖像権を有しております
(日本国憲法第13条【個人の尊重〜】に基づき、自分の肖像を無断で描写・
 撮影されたり使用されたりすることを拒否する権利を有しています)


## 峠駅と駅立売り(窓越し販売)の変遷 ## 5代目のコメントをつけて…


2007年 スノーシェッド内の新峠駅にて4代目・5代目の立売り風景
ご存じですか?4人対面シートでは窓が開閉可能なんで本当の!?窓越し販売


1977年 上の写真の30年前。3代目・4代目の立売り風景
写真右上が、本線からのスノーシェッド(2009年現存してます)
4代目の奥に駅員が!さらに奥に貨物係まで!車両も手動ドア。懐かしい。
余談ですが、この時代の車両シートに「瓶の栓抜き」あるんです。飲料は瓶詰の時
代、王冠集めが子供の遊びだった。ああっ、車内に扇風機もあったこと思い出した!


1990年代??の4代目 前出2枚の写真のちょうど中間の時代か。車両のドアが自
動になっている。窓は全席開閉可ではあったかな。客車はもはや2・3両だけの編成に
なっている。そのくせ機関車は重連。せっかくの重連なんだからたくさん牽いてくれた
らカッコイイのだが。


2004年 5代目の本音としては、近代的電車よりレトロな木造旅客列車で売ってみ
たい


1990年 スイッチバック廃止イベント時の4代目 力餅が山積み!!
EF71とED78の重連ももはや20年近く前の記憶


1990年は全国の鉄ちゃんがスイッチバック4駅に集結(赤岩駅はお隣福島市なも
ので「米沢市広報」では3駅しか列挙していない)峠駅下りホームの写真。


1990年 峠駅前には娯楽施設はない。登山や湯治客がわずかにいるだけのはずの峠
駅だが…、そうこの方がたはスイッチバックを味わう目的でこの駅に降り立った。


1971年 中央の老爺が当店3代目。背後に押しつけた雪の壁。現在と違い客車の編
成が長い。7・8両以上か。立売りも一人ではまかなえず。3代目(祖父)の右に3代
目の娘。(自分からみて伯母)総動員でこなしていた。
 参考までに、写真奥はスイッチバック支線の行き止まり。でも行き止まりなのにスノ
ーシェッド(雪よけ)があります。なぜか?ここ峠駅は文字通りどちらも坂を下ること
になる。そのため、蒸気機関車の時代は機関車を前後入れ換えをおこなっていた。その
ために線路最奥に退避線進入のためのポイントがあり、ポイントのためのスノーシェ
ッドを設置したわけである。(このスノーシェッドも現存している)


1965年峠駅 自分の父である4代目が学生だった頃 スノーシェッドが現在とおん
なじだ。ちょうど汽車が進入してるあたりが、スイッチバック廃止による駅の移動後
「当店築山庭園」として生まれ変わった。


明治時代の峠駅?? 絵葉書らしい
「奥羽線峠停車場……是より姥湯温泉迄二里(桝形屋旅館)」と書いてある
架線がないから蒸気の時代、左奥のスノーシェッド内に転車台があり仕事をしていた


昭和40年代?? 冬の3代目立売りスタイル
力餅以外につまみやサイダー、カップ酒が販箱に入っている。
駅立売りは当然、国鉄より許可を得てやらないといけない。3代目著『峠の力餅八十年
の歩み』にある販売許可書の写しから書き出してみると…
@大正三年の許可書−売品種類 茶、酒、鶏卵、菓子、餅、果物、サイダー、煙草
A昭和拾年の許可書−販売品目録 力餅、パン(おそらく乾パン)、羊羹キャラメ
、時雨の松、ゆべし、のし梅、ビール、金深サイダー、沖政宗、御茶、果実類(蜜
柑、梨、桃、林子、季節より)、煙草、郵便切手類官製葉書
デジタル媒体や読み物の普及していない時代、車中で家族に手紙を書いたり、乗
り合わせた人たちと食べて飲んで喫煙して…車中の活気を想像できます


昭和50年代?? 夏の4代目立売りスタイル
上の写真と同じ場所なんですが…駅看板が塗り替えられていますよね


2004年 スノーシェッド内の新駅での5代目立売りスタイル


  ##高速化・効率化・時間短縮時代における絶滅危惧業種の矜持##

エキナカに販売スペース(店舗)を設けて販売員が常駐し、行き交う人に商品を販売するのと違い、当店が行う「駅立売り(窓越し販売)」は電車の到着に合わせて駅へ向か電車の停車中に乗客に窓越し・ドア越しに商品を販売するものである。なぜなら、秘境駅とすら呼ばれる峠駅は電車到着時以外は基本誰も人がいないので常駐する意味がないのである。

 当店は「駅立売り」を鉄道開通以来続けている

これは事実の一部分にすぎない
「駅立売り」に関するさまざまなエピソードや峠駅時刻表はこのページ内に書き綴って
いるのでをご覧いただきたいが、日本国内でも絶滅危惧業種である「駅立売り」の
真実は

 「1日の電車停車時間合計6分」の限られた時間内にいかにして販売するか

ということである。もちろん「店舗での営業」は朝から夕方まで営業しているが
当店の特殊性は「1日6分の駅立売りを継続するからこその峠の茶屋なのである」

                           ※1本あたりの停車時間約30秒×1日の全停車数12本
                             ただし、予約注文がない場合朝・晩の電車で販売を
                             おこなっていないから実際は1日6分もない
                                                   



駅立売り(窓越し販売)余話 この仕事の難しさは「販売可能時間約30秒」これに尽きる

## 売り子の動きがわかれば、買える確率もあがる ##
常に人の往来がある駅での「立売り」と違い、当店の「立売り」は電車が停車してから発車する
までの「販売可能時間約30秒」という時間的制約がついている。「販売時間」ではなく「販売
可能時間」という表現が真実を語っている。「単純計算で1人のお客に6秒で対応したとしても
販売できるのは5人、1秒ずつ削り取って5秒ならば6人目にも売れる」という業務が、冗談み
たいな本当の実態である。そんなわけで、我々にとって電車停車中の1秒1秒がとても貴重で
あり、無駄の少ない販売動線を作るために、1つのルールをつくっている。それは「売り子の
立つ位置は電車最後尾の乗降口前」だということ。これを知っていると買える確率があがる
はず。その理由は

・電車の先頭部停車位置に立つと、後ろの乗客に「売り声」が届かず、売っていることすら気づ
いてもらえない

電車の中央部停車位置に立つと、一見前にも後ろにも近いが、両端に購入希望者がいた場
合、動線が長くなり、時間をロスしてしまう。

電車の最後尾停車位置に立つと、電車進入時から「売り声」を出すから、先頭部の乗客にも売
り子の存在を認知され、売り子の動線は最後尾から先頭部まで一直線

もちろん、電車の乗降客が多い日などはこの動線が確保できなくなるのだが、「30秒の制限
時間のなかで結果の出る動き」をしなければならない(13:20の電車遅延すると困るんだなあ 1
3:25の電車と同時着になった時は…)

こぼれ話ぽろり  ## おつり編 ##
30秒の停車時間。時間をロスする第一要因は代金の受け渡し。都会の大きな駅ならキオスク
を利用、もたもたして1本乗り遅れても10分も待てば次の電車が入ってくるだろう。田舎はそう
はいかない。次の電車は3時間後という目に合う。こちら側の対策としては
@商品の1本化 お客様が複数の商品を前に選択するロスタイムをなくし、お買い上げ金額の
 暗算がすみやかに行える。
 (ちなみに30年前までは力餅以外にも、お茶・ジュース・アルコール・おつまみさきいか・冷凍みかんなど売って
  いたし、停車時間もあった。スイッチバックがあった分なんとなくのんびりした旅を味わえたのだが…)
Aおつりの小分けストックと電車入線直前の動線シミュレーション・遅延時のシミュレーション
B緊急手段 ***アクション(後で車掌さんににらまれます)
1万円渡されてもすぐにおつりを出せるので次のお客様を求めることができるのですが……お
客様が、小銭入れから小銭をジャラジャラ「ひい、ふう、みい…」と始めたらこちらは動けない。
正直、時間が惜しい。車掌さんの懐中の時計が時を刻み、「ピィー」の笛音。冷や汗タラタラ、
ただただ恐縮するのみ。大きいお札をくずすのは早くできるのですが、小銭を減らしたいという
かたは、駅に着く前に準備していただけたらありがたいです(汗)。

こぼれ話ぽろり  ## 領収書編 ##
いつものように電車越しに餅を売っていたところ、電車から降りてきて餅をお買い求めになられ
たかたが一言。「領収書きってください!」これにはビックリお目目パッチリ。初めての展開。ほ
かのお客様に餅を売りつつ「あと10秒ほどで発車しますよ」と言うと、あわてて乗車。電車はト
ンネルに吸い込まれていった。30秒の停車時間での乗客との真剣勝負。領収書きるにはちょ
と時間が足りません。ゴメンナサイ。(どうしてもという方は電話で予約!?を)

こぼれ話ぽろり  ## カメラつきケイタイ編 ##
電車が停車。乗降口が開き、いろいろな人が顔を出す。足元かためた登山客。大きなバッグ
の湯治客。鉄道写真家。駅看板の前で記念写真を撮って再び乗り込む人。よく分かっていな
いが屋根に覆われた駅が珍しいと顔を出す人。それらのなかからお餅を買っていただける
か否かを見極めるのが30秒間の密度の濃い楽しい仕事。1000円札を振りかざしてこちら
に手を振るかたはものすごくありがたい。車内をスタスタ「こちらに近づいてきたぞ」と思ったら
お手洗いに入っていかれて「なんだ、違うのか」というオチもたびたび。ここまでは10年ほど前
から変わらぬ風景。そこに最近1・2年で大きな変化が。”カメラつきケイタイ”。一眼レフのごつ
いカメラと違いコンパクトなケイタイは電車のガラス越し・遠目にみるとお財布をにぎりしめてい
るようにも見えるのでお餅を売ろうと駆け寄るのですが、「パチリ」と撮られて、♪はいそれま〜
で〜よ〜♪。まあ口コミの話題の材料にでもなれば、しめたものですが……(イヤ トイウワケデハナイ
ノデスガ、セメテ ヒトコト コトワッテ。マナーワルイバアイガタタアルモノデ……。ショウゾウケン ガアルノデハ?)

こぼれ話ぽろり  ## あ・うんの呼吸編 ##
駅で餅を売っていておもしろいなと思うことがいくつかある。車掌さんの個性というか、仕事の
パターンを毎日のように観察できるのもそのひとつだ。自分は幼稚園のときから高校卒業まで
13年間、汽車で通学していたから、当時からの車掌さんはおおかたわかる。若い車掌さんは
只今じっくり観察中。車掌さんを観察するのは実は大変重要。お客さんの乗り降りがないと、
「早いんじゃないの〜」と思うくらいでドアを閉じる車掌さん。こちらは小走りに車内をのぞいて
「お餅いかがですか〜」とやらないと隅々まで乗客の確認ができない。1拍おいてドアを閉じる
車掌さんなら隅々まで売り声をかけた後グルッと見回して再確認できる。1拍以上のんびりおく
車掌さん。売り声出して行ったり来たり2往復・3往復してもまだドアが閉まらないとけっこう居
心地悪い。こちらとしては車掌さんのテンポを知ったうえで電車の中をのぞかないと、売れるも
のも売りそびれたりしちゃうわけ。車掌さんと呼吸を合わせるのは本当に難しい。停車時間を
引き延ばしたりして迷惑ばかりかけてすみません。改めて最敬礼。
(福知山線の脱線事故は、駅で立ち売りを行っている店という視点からも改めて考えされられるものがあります。運
転士も車掌も定時で安全に運行するのが第1義であることに同意します。当店としても、駅でのやりとりがよりスムー
ズに行えるように努めたいと思います。)

こぼれ話ぽろり  ## 電車が雨を呼ぶ!?編 ##
それは梅雨の時期に一番多い事実である。”泣き出しそうな空”という言い回しがあるが、降り
そうで降らない天気というものがある。いよいよ降ってきたぞ、と思わせておいて、数分もすれ
ば太陽が顔を出す。山では珍しくもない事象ではあるが、ここにひとつ、どうしても納得いかな
い・したくない現象が…。それは、知る人ぞ知る”電車が雨を連れて来る”現実。これは、雷様
がゴロゴロ言いつつも雨は降ってなく、お日様が顔を出している時に起きる。雷様はターゲット
(?)に動く電磁石、つまり電車にくっついて来る。電車が近づくと雨が降り、遠ざかると雨もや
む。これは私的側面から見ると、”峠駅に餅を売りに行く時だけ雨が降る”ということ。今でこそ
スノーシェッド内のホームだから業務上たいした影響はないものの、スイッチバックがあった
頃、ホームが屋根で覆われていなかった頃は、その一瞬の降雨に濡れながら餅を売った。し
かも電車が遠ざかると雨もやむ。「なんでやねん」とぼやいてみたくもなった、うれしくない現象
である。

スイッチバック時代の風景から  ## 旧型客車、手動ドアならではの〜編 ##
これは、まだ「マッチ箱」と呼ばれた客車を使用していた頃の話。窓は手動開閉、乗降口のドア
も手動開閉なものだから、駅に停車しようと減速している汽車から飛び降りたり、発車して、
速している汽車に飛び乗ったりする若い連中も少なくなかった。餅を売っていて困るのが、汽
車が動き出してから窓から顔を出して「餅をくれ」という客。汽車は徐々にスピードを増し、それ
追いすがって餅を差し出す。ひどいときは、餅を窓に投げ込んで、代金を投げ落としてもらっ
たり、とあらっぽい取引。いや、もはや取引ともいえない気がする。代金をちょうどいただけたら
まだよいが、おつりが生じるときが大変。おつりを渡しそびれたり、逆に餅を持ち逃げ(餅逃げ
x)されたり。停車時間がタップリあるにもかかわらず、そうやってスリルを楽しむ人もいた。現
在の電車は、ドアはしっかりと閉じられアッという間に速度が上がるから、餅を差し出すこともで
きない。そのかわりに、代金未収でげんこつをくらうようなことにはならないのだが…(電車停
車後、お早めにアピールをお願いします)

スイッチバック時代の風景から  ## 紙幣は風に舞い、硬貨は雪に沈む ##
現在のホームはスノーシェッド内だが、旧ホームは外。この豪雪地帯には「ブリザード」という表
現があてはまる強風のなか立売りをおこなう。手袋をしたままだとおつりを扱いづらいから販売
のその瞬間に手袋をとるが、それでもやはり手はかじかんでしまって、受け取りそこなった
貨は雪に沈み、数か月後、雪解け後のホームには硬貨がちらほら。紙幣は紙幣で、突然の
吹雪にもっていかれ、♪飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで〜回って回って回って回〜る〜♪

スイッチバック時代の風景から  ## トンネル、ボヤ火災編 ##
まだ、スイッチバックが廃止される前。福島側からの列車は、板谷駅を出た後、トンネルをくぐ
って、本線から峠駅への引き込み線に入る。乗客の乗り降りを終え、後退してトンネル内のも
う一つの引き込み線に入る。そして再び前進・本線に戻って次の大沢駅へ向かう。前述した旧
型客車が現役の時代の話。峠駅の引き込み線は、地形上の理由でトンネル仕様となった。旧
型客車のドアは手動開閉。トンネル引き込み線にて列車は10数秒停車。そして、洞窟内部に
でも入ったような闇と冷気。おもわず、ドアを開け放し闇に包まれた空間を楽しんだ人は多い。
(今で言えば、津軽海峡線で思わず海底下車してしまった感覚。ちなみに5代目は洞窟や鉱山
跡好きときたもんだ)身を乗り出して、トンネルの壁に手をペタペタなどは誰もがやった。しばし
ば、タバコのポイ捨てが思わぬ事故となった。線路の枕木は腐敗防止のため油を塗っている。
バラスト(砂利)敷きなので、トンネル内はジメジメせずに、枕木は乾いている。ポイ捨てタバコ
枕木に引火。次の列車が到着するまで誰もトンネル内の失火に気づかない。であるからし
て、トンネル内部からの煙に気づいた段階ではかなりの勢い…。現在、スイッチバック廃止の
時点で引き込み線の線路も取り払われた。なんにしろ、タバコのポイ捨ては危険であるので
す。
 
・峠駅停車後、トンネル引き込み線へバックで進入する列車、その後本線へ入る。(右トンネル
 が上り本線、さらに右に下り本線)引き込み線は、現在線路はない。(ワインや野菜の貯蔵庫
にはうってつけ 使えるならば)

大正時代・明治時代まで遡って  ## 夜の立売りにおける照明の恩恵 ##
 3代目の著した資料によると「大正14年9月1日より峠駅停車場に電燈が初めて設置され
る」とあります。
 以下「…それまでは(駅職員によって)列車進入直前に、角型の硝子張りの石油ランプ
かりが入れられたものです。ホーム全体に4,5か所ほのかにうすぐらいランプの光が足元を
照らす程度で、とてもとても手元の金銭の確認などできるものではありませんでした。鉄道局だ
からこそ硝子張りのランプを所有していましたが、民間の我々は紙製の弓張り提灯にロウソク
を灯して、その明かりでもって金銭を確認していました。雨の日ともなると、片手に提灯片手に
カラ傘を持っての商売ですから想像しても大変なことがわかります。冬の猛吹雪の夜などは
提灯の火が消えないようにすることに労力をさかれました…」
 自分の祖父の記録に、提灯片手に夜の立売りを行っていたとあると、現在当たり前のように
使っている照明、電力その他がいかにすばらしいものかと顧みるものです

## 資料 峠駅立売 開業当時の許可書 ## 
以下掲載の許可書は残念ながら現存しておりません。
故・3代目が著した自伝から取り込みましたが、達筆すぎて解読しきれません。








                                               2016.11.17改訂